生成AIで図を作ると、体裁の整ったものがすぐ出ます。しかし公開できる図かどうかは別の問題です。本文と食い違っていないか、スマートフォンで読めるか、画面を見られない人に伝わるか。この記事では、AI図解を公開可能な状態へ持っていくまでの確認工程を整理します。

対象は、Web担当、編集者、コンテンツ制作者、広報の方です。プロンプト集、個別案件の法的判断、美的な正解、来歴標準への対応義務づけは扱いません。

生成AIで図解を作る工程を6つのゲートとして順に示した流れ図。各ゲートの内容は図の直後の一覧に記載。
図:AI図解の6ゲート — AIが担うのは下書き生成のみ、中心質問の設定から公開判断までは人が担う
  • ゲート1 中心質問(人):この図で何に答えるかを1文で決める
  • ゲート2 主張と出典(人):図に載せる要素を列挙し、それぞれ本文のどの記述に対応するかを書き出す
  • ゲート3 構造の選択(人):順序・比較・階層・関係のどれを表すかを決める
  • ゲート4 下書き生成(AI):AIに作らせる。AIが担うのはここだけ
  • ゲート5 検証(人):文字・数値・矢印の向き・因果・抜けを本文の主張と照合し、色だけに意味を持たせていないか、複数の画面幅で切れや重なりが出ないかを確認する
  • ゲート6 代替テキスト・来歴・承認(人):短い代替テキストと、複雑な図には本文または隣接する長い説明を用意し、出典・ツール・日付・確認者を記録したうえで人が公開を承認する

矢印は工程の順序を表します。以降の各節が、この6ゲートに対応します。

1. 図解は主張の媒体である

図は本文の飾りではありません。読者は図だけを見て理解しようとします。したがって図に描かれた矢印や並びは、それ自体が主張です。本文が「相関がある」としか言っていないのに、図の矢印が原因から結果へ向いていれば、図のほうが強い主張をしていることになります。

本稿の立場は単純です。図だけに新しい主張を置かない。図に描いてよいのは、本文が述べており、出典まで追える内容に限ります。

2. 中心質問と結論を brief に固定する

作り始める前に、短い制作指示(brief)を書きます。3行で足ります。

  • 中心質問:この図は何に答えるか
  • 結論:読者に持ち帰ってほしい1文
  • 矢印の意味:順序・因果・依存のどれを表すか

矢印の意味を先に決めておくのが要点です。決めずに作ると、同じ図の中で順序を表す矢印と因果を表す矢印が混在します。

3. 主張と出典の対応を作る

図に載せる要素を箇条書きにし、それぞれ本文のどの記述に対応するかを書き出します。対応がない要素は、図から外すか、本文へ追加するかのどちらかです。

AI が生成した図には、指示していない要素が入ることがあります。もっともらしい補助線、実在しない段階、原文にない数値などです。対応表を作ると、これらが機械的に浮かび上がります。出力の主張を分解して確認する手順そのものは生成AIの出力をファクトチェックする実務手順で扱っています。

4. 順序・比較・階層・関係のどれに変換するか

伝えたい内容によって、適した構造は変わります。

伝えたいこと構造ありがちな失敗
工程の順番順序(縦または横のフロー)分岐を無理に一直線へ押し込む
選択肢の違い比較(表・並列)優劣がないのに上下で並べて序列に見せる
包含関係階層(入れ子)並列の概念を親子で描く
影響のつながり関係(矢印つきの網)相関を因果の矢印で描く

5. 文字・数値・矢印・因果・抜けを検証する

brief と対応表がそろったら、AIに下書きを作らせます。下書きが出たら、次の5点を本文と突き合わせます。

  • 文字:固有名詞、専門用語の表記が本文と一致しているか。誤字が図に残っていないか
  • 数値:本文にある値と同じか。単位と期間が付いているか
  • 矢印:向きは brief で決めた意味どおりか
  • 因果:本文が断定していない因果を、図が断定していないか
  • 抜け:本文にある重要な段階や条件が、図から落ちていないか

誤りの「頻度」は本稿では示しません

AI生成図に特有の誤りがどのくらいの割合で起きるかを示す数値は、本稿では扱いません。確認すべき観点を挙げるに留めています。

6. 色だけに意味を持たせない

W3C の WCAG 2.2 は、達成基準 1.4.1「Use of Color」(レベルA)で 「Color is not used as the only visual means of conveying information, indicating an action, prompting a response, or distinguishing a visual element.」(色が、情報を伝達し、動作を示し、反応を促し、視覚的な要素を区別するための唯一の視覚的手段になっていないこと)と定めています。

図解では次のように併用します。

  • ラベル:凡例の色に加えて、要素そのものに文字を置く
  • :区分ごとに角丸/角張り、実線枠/二重枠などを変える
  • 線種:実線・破線・点線で系統を分ける

コントラストも確認する

コントラストについても基準があります。WCAG 2.2 の 1.4.3「Contrast (Minimum)」(レベルAA)は文字と文字画像に 4.5:1(大きい文字は 3:1、装飾・ロゴ等は例外)を、1.4.11「Non-text Contrast」(レベルAA)は UI コンポーネントと内容の理解に必要なグラフィックオブジェクト3:1 を求めています。適用対象と例外があるため、すべての線や塗りが一律に対象になるわけではありません。

7. 複数の画面幅で確認する

WCAG 2.2 の 1.4.10「Reflow」(レベルAA)は、320 CSS ピクセル相当の幅(縦スクロールの場合)で、情報や機能を失わず、二方向のスクロールを必要とせずに提示できることを求めています。

図解は、この基準の維持が崩れやすい要素です。実務では次を実画面で確認します。

  • 文字が切れていないか、要素同士が重なっていないか
  • 横スクロールが発生していないか
  • 縮小表示で文字が読めない大きさになっていないか

本サイトでは、375/390/767/768/1280px の5幅で実描画を確認し、768px を境に縦長版と横長版の2アセットを出し分けています。これはWCAG が定める要件ではなく、本サイトの実装上の受入条件です。基準を満たすための手段は他にもあります。

8. 代替テキストと長い説明を用意する

WCAG 2.2 の 1.1.1「Non-text Content」(レベルA)は 「All non-text content that is presented to the user has a text alternative that serves the equivalent purpose」(利用者に提示されるすべての非テキストコンテンツには、同等の目的を果たすテキストによる代替が提供されている)と定めています。

W3C WAI の Images Tutorial は、代替テキストについて 「The text alternative needs to be determined by the author, depending on the usage, context, and content of an image.」(テキストによる代替は、画像の用途・文脈・内容に応じて著者が決める必要がある)と述べ、画像を情報を伝えるもの、装飾、機能、文字画像、複雑な画像などに分けて扱っています。

複雑な図は、短い説明だけでは足りない(WAI の推奨)

WAI の Complex Images では、複雑な画像は 「contain substantial information – more than can be conveyed in a short phrase or sentence」(短い語句や文では伝えきれない実質的な情報を含む)とされ、「a two-part text alternative is required. The first part is the short description to identify the image and, where appropriate, indicate the location of the long description. The second part is the long description – a textual representation of the essential information conveyed by the image.」(2部構成のテキスト代替が必要となる。第1部は画像を識別し、必要に応じて長い説明の所在を示す短い説明。第2部が長い説明であり、画像が伝える本質的な情報をテキストで表したものである)と説明されています。

長い説明の提供方法として、隣接するテキストリンク、alt での所在の明示、figurefigcaption による構造的な関連づけが挙げられています。

規範と参考の区別

1.1.1 は WCAG の達成基準(規範)です。一方、Images Tutorial と Complex Images は W3C WAI が公開するチュートリアル(推奨される実践)であり、達成基準そのものではありません。本稿では両者を区別して記述しています。また、「alt は◯文字以内なら適合」といった文字数による適合判定は存在しません。

9. 来歴を記録し、権利の疑義では止める

図の来歴を残します。あとから「この図の数字はどこから来たのか」を追えるようにするためです。最低限これだけ記録します。

項目記録する内容
出典図に含まれる事実の出典と確認日
ツール生成・編集に使ったツールと版
AI使用箇所どこまでをAIが作り、どこを人が直したか
日付作成日と最終更新日
確認者内容を照合した人、公開を承認した人
ファイル公開したファイルのハッシュ値など、版を特定できる情報

メディアの来歴を記録・提示するための技術標準として C2PA の Content Credentials があります。C2PA 本体仕様は来歴(provenance)を「資産の履歴と、それが関わった主体・他の資産とのやり取りを理解するという論理的な概念」と位置づけ、素材(ingredient)のアサーションなどで表現します。AI・機械学習向けのガイダンスでは、学習データのハッシュやモデルの署名といった要素も扱われています。

来歴情報が保証するもの・しないもの

来歴情報が示すのは「どこから来て、どう変更されたか」です。C2PA 仕様自身、その適用範囲について「C2PA specifications SHOULD NOT provide value judgments about whether a given set of provenance data is 'good' or 'bad,' merely whether the assertions included within can be validated as associated with the underlying asset, correctly formed, and free from tampering.」(本仕様は、ある来歴データが「良い」か「悪い」かの価値判断を行うべきではなく、含まれるアサーションが当該資産に紐づくものとして検証でき、正しく構成され、改ざんされていないかを示すに留まる)と述べています。したがって来歴情報は、そこに書かれた内容が真実であること、オリジナルであること、権利処理が済んでいることを保証するものではありません。本稿は C2PA の実装を必須とはせず、社内の記録表による来歴管理でも目的は果たせるという立場を取ります。

著作権について

文化庁は「AIと著作権について」のページで、『AIと著作権に関する考え方について』(2024年3月15日)『AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス』(2024年7月31日)などの資料を公開しています。

同ページは、これらの資料を整理した背景として 「生成AIと著作権の関係に関する判例及び裁判例の蓄積がないという現状を踏まえて、生成AIと著作権に関する考え方を整理し、周知すべく」 と述べています。つまりこの領域は、裁判所の判断の積み重ねによって輪郭が定まった段階にはないということです。行政の整理は判断の助けになりますが、それ自体が個別案件の適法性を決めるものではありません。

本稿は、生成AIで作った図が著作権上「自由に使える」とも「使えない」とも述べません。AIツールの利用と、その出力の利用は同じ権利判断ではなく、具体的な事情によって結論が変わります。素材の出所に疑義がある場合、他者の著作物に似ている可能性がある場合は、公開を止めて権利者または専門家に確認してください。

10. 公開前チェックリスト

  • 中心質問と結論が brief に書かれ、図がそれに答えているか
  • 図の要素すべてが本文の記述に対応しているか
  • 矢印の意味(順序・因果・依存)が本文と一致しているか
  • 文字・数値・単位・期間が本文と一致しているか
  • 本文にない因果を図が主張していないか
  • 色以外にラベル・形・線種で区別しているか
  • 文字と、理解に必要な図形のコントラストを確認したか
  • 狭い画面幅で情報と機能を失っていないか。切れ・重なり・横スクロールがないか
  • 短い代替テキストがあり、複雑な図には本文または隣接する説明で要点を提供しているか
  • 出典・ツール・AI使用箇所・日付・確認者・ファイル版を記録したか
  • 内容を照合した人と、公開を承認する人を決め、承認の記録を残したか
  • 権利関係に疑義がある場合、公開を止めて確認したか

まとめ

冒頭に挙げた6つのゲートという並び自体は本稿の整理であり、W3C や C2PA が規定した工程ではありません。

この工程を回した結果を業務成果として測るなら生成AI導入の効果測定、図解ツールに保存や公開の操作まで任せる場合の権限設計はAIエージェントの権限設計が対応します。

作る速度はAIが変えますが、図が本文と一致しているか、見えない人にも伝わるか、出所を説明できるかは人が担い続けます。次に1点作るとき、まず brief の3行を書いてから生成させてみてください。3行が書けないなら、その図はまだ何を伝えるか決まっていません。


引用元・参考文献

標準・公式ガイダンス

公的機関

  • 文化庁『AIと著作権について』(『AIと著作権に関する考え方について』2024年3月15日、『AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス』2024年7月31日 等を掲載/確認日:2026年8月11日):https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/aiandcopyright.html

※ 6つのゲートという工程の並び、brief の3行、構造の4分類、来歴の記録項目は本記事による編集上の整理であり、W3C や C2PA が規定した工程ではありません。WCAG の達成基準(規範)と、W3C WAI のチュートリアル(推奨される実践)は本文中で区別しています。本サイトの375/390/767/768/1280px という受入条件は実装上の追加契約であり、WCAG の要件ではありません。来歴情報は内容の真実性・独自性・権利処理を保証しません。著作権に関する個別の適法性は本稿では判断せず、公式資料の参照と専門家確認への案内に留めています。掲載資料は改定されるため、参照時は最新版をご確認ください。