生成AIを使えば記事の下書きは速くできます。しかし公開した内容の責任は制作側に残り、AIには移りません。この記事では、AIを使う場合の編集工程を5段階に分け、どこに人間の承認ゲートを置くかを整理します。

対象は、自社メディアの担当者、編集者、専門知識を持つ事業者で発信を行う方です。特定のツールの操作ではなく、品質を落とさずに速度を上げるための工程設計を扱います。

前提:問われるのは制作手段ではなく読者価値

Googleは検索セントラルの資料で、AI生成コンテンツについての考え方を公開しています。要点は、制作手段そのものを問題にしているのではなく、ユーザーへの価値のない大量生成を問題にしているという点です。スパムポリシーでは「scaled content abuse」が次のように定義されています。

Scaled content abuse is when many pages are generated for the primary purpose of manipulating search rankings and not helping users.

(出典:Google 検索セントラル「Spam policies for Google web search」)

同社の資料では、AI等のツールを使ってユーザーに価値を加えないページを多数生成することがスパムポリシー違反に当たり得ると説明されています。またコンテンツがどう作られたかの情報を添えることについては「consider(検討する)」という表現であり、開示が一律に必須とされているわけではありません。

「AIを使うと検索評価が下がる」「AI記事は必ずペナルティを受ける」といった説明は、上記の一次情報とは整合しません。逆に「AIを使えば上位表示できる」という説明も同様です。検索順位を保証する記述は、どの方向であっても避けてください。

生成AIを使う記事制作の5段階と人間の承認ゲートを示した図。第1段階「企画」=読者・中心質問・扱わない範囲を決める。人が担う。ゲート1:企画の承認。第2段階「調査」=一次情報に当たり、主張と根拠を対応づける。人が主導しAIは補助。ゲート2:出典の確認。第3段階「下書き」=構成に沿ってAIが草稿を作る。AIが担う。第4段階「検証」=事実・引用・リンク・数値・日付の5点を原典と照合する。人が担う。ゲート3:公開可否の判断。第5段階「公開」=メタデータ・内部リンク・画像権利を確認して公開し、以後は訂正と更新を運用する。人が担う。要点:AIが主に担うのは第3段階のみで、判断を伴うゲートはすべて人にある。
図:編集工程の5段階 — AIが主に担うのは下書き、承認ゲートはすべて人

第1段階:企画 — 読者と中心質問を先に決める

AIに「〇〇について記事を書いて」と頼むと、一般論としては正しいが誰の役にも立たない文章が出てきます。原因は工程ではなく企画にあります。書き始める前に次を決めます。

  • 読者:誰が、どんな状況で読むか
  • 中心質問:その読者が答えを知りたい問いは何か(1つに絞る)
  • 読者価値:読み終えたあと、何ができるようになるか
  • 扱わない範囲:この記事では触れないこと

4つ目を書き出すのが効きます。「扱わない範囲」を決めないと、記事は際限なく広がり、結果として何も残らない文章になります。

第2段階:調査 — 一次情報に当たる

AIは出典を挙げることがありますが、その出典が実在し、書かれている内容が本当にそう書いてあるかは別問題です。調査段階では次を人が行います。

出典を開いて確認する

  • URLが実際に開けるか(リンク切れ・移転の確認)
  • そのページに、引用しようとしている内容が実際に書かれているか
  • 発行主体・公表日・版数を確認する
  • 解説記事ではなく、元の資料に当たれているか

優先順位は、官公庁・標準化機関・原論文・公式仕様やポリシーが上位です。まとめ記事や解説ブログは、一次情報を探す手がかりとしては有用ですが、根拠としては使いません。孫引きは、途中の解釈の誤りをそのまま引き継ぎます。

主張と根拠を対応づけて記録する

記事中の主張ごとに、次を記録しておきます。公開後に問い合わせを受けたときに参照できます。

記録する項目内容
主張記事で述べていること
一次情報その根拠となる資料名とURL
確認日その資料を実際に開いて確認した日
適用範囲その資料が対象としている範囲(業種・規模・国など)
限界その根拠では言えないこと

「確認日」を残すのは、資料が改訂されるためです。ガイドラインや仕様は版が上がります。公表日ではなく、自分が確認した日を記録します。

数値を扱うときの条件

数値は誤解を生みやすいため、次の4つが揃わないものは使いません。

  • 母集団:誰を対象とした数値か
  • 時点:いつのデータか
  • 単位:何を数えているか
  • 比較条件:「〜倍」「〜削減」は何と比べたのか

「導入企業の生産性が◯%向上」「コストが◯割削減」といった数値を、根拠なく置かないでください。自社の実績であれば条件を明示し、他社事例であれば出典と適用範囲を示します。

とくに自社の商品・サービスの効果を示す表示として数値を使う場合は、景品表示法の観点が加わります。同法は、商品・サービスの内容が実際のものより著しく優良であると一般消費者に示す表示を優良誤認表示(第5条第1号)として規制しており、消費者庁長官は、効果・性能に関する表示について表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができるとされています(不実証広告規制)。「後から根拠を出せない数値は置かない」が実務上の線引きになります。

第3段階:下書き — AIに渡す情報を決める

下書きはAIが担いやすい工程です。ただし「調べたことをまとめて」と丸投げすると、調査で確認した根拠から離れた文章が出ます。渡すものを決めます。

  • 企画で決めた読者・中心質問・扱わない範囲
  • 調査で確認した主張と根拠の対応表
  • 見出し構成(人が決める)
  • 禁止事項(断定的な効果保証、順位保証、根拠のない数値を書かないこと)

見出し構成を人が決めるのが要点です。構成は記事の論理そのものであり、ここをAIに任せると、後段の検証で直す量が増えます。

第4段階:検証 — 5点に絞って原典と照合する

ここが編集工程の中心です。読みやすさの推敲と混ぜないでください。混ぜると、文章は整うが事実は確認されていない状態になります。

検証項目確認すること
1. 事実各主張が、対応表の一次情報で裏づけられているか。裏づけのない主張は削除するか、推論であると明記する
2. 引用引用が原文どおりか。要約と引用が区別されているか。引用の分量が必要最小限か
3. リンク全リンクが開けるか。リンク先が意図した資料か
4. 数値母集団・時点・単位・比較条件が本文に書かれているか
5. 日付公表日・版数・確認日が正しいか。「最新」と書いた箇所が現時点でも最新か

事実・推奨・推論・例を混ぜない

読者が最も困るのは、どれが事実でどれが書き手の意見か分からない文章です。文中で書き分けます。

  • 事実:出典を示せること
  • 推奨:書き手の判断であること(「〜が実務的です」など)
  • 推論:根拠から導いた見立てであること(「〜と考えられます」など)
  • :例示であって一般化できないこと

著作権の観点

生成AIと著作権については、文化庁が「AIと著作権に関する考え方について」(令和6年3月15日、文化審議会著作権分科会法制度小委員会)を公表しており、事業者・利用者向けには「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」(令和6年7月31日)が公開されています。制作実務としては、少なくとも次を確認します。

  • 引用が、必要最小限であり、出所を明示し、引用部分が本文と区別されているか
  • 他者の文章を、要約と称して実質的に再現していないか
  • 図表を転載する場合、権利者の許諾または引用の要件を満たしているか
  • AI生成画像を使う場合、そのツールの利用規約と権利の扱いを確認したか

法令の適用は個別判断です

著作権法上の引用の適法性、AI生成物の権利関係は、個別の事情により結論が異なります。本稿は制作実務上の確認観点を一般情報として整理したものであり、個別の法的結論を示すものではありません。判断に迷う場合は専門家にご確認ください。

第5段階:公開 — メタデータ・内部リンク・承認

公開直前に確認する項目を固定しておくと、抜けが減ります。

  • タイトルとディスクリプション:内容と一致しているか。誇張していないか
  • 見出し:本文の論理と対応しているか
  • 内部リンク:関連記事へのリンクが、読者にとって自然な位置にあるか
  • 画像:出所と利用可否が確認できているか。代替テキスト(alt)が内容を説明しているか
  • 公開日:実際の公開日であるか(下書き日やビルド日ではない)
  • 承認者:誰が公開を判断したかが記録に残るか

訂正と更新の運用

公開後に誤りが見つかることはあります。訂正できない体制で出さないのが原則です。あらかじめ次を決めておきます。

  • 誤りの申告を受け付ける窓口
  • 訂正の判断者(公開を承認した人と同じでよい)
  • 本文を直すのか、訂正の記載を残すのかの基準
  • 資料の改訂に追随して更新する記事の範囲

品質が落ち始めた兆候

AIを使った制作は、慣れるほど検証が薄くなります。次の兆候が出たら工程を見直します。

  • 記事ごとの構成が同じ形に揃ってきた(テンプレートに内容を合わせている)
  • 「一般的に」「多くの企業で」といった主語のぼやけた表現が増えた
  • 引用元が解説記事ばかりで、一次情報が減った
  • 検証で修正が入る箇所が、記事を重ねるごとに減り続けている
  • 公開本数は増えたが、読者からの具体的な反応が減った

4つ目は誤解しやすいので補足します。修正が減ること自体は、書き手が慣れた結果かもしれません。見るべきは件数ではなく検証の範囲です。第4段階の5点(事実・引用・リンク・数値・日付)を、記事ごとにどこまで実際に照合したかを記録してください。照合していない項目が増えているなら、修正件数が減っていても検証は省略され始めています。

関連する記事

調査段で社内資料を根拠に使う場合、その検索の仕組みと限界はRAGとは何かで整理しています。会議記録を一次記録として扱う場合の工程は生成AIで議事録を作る業務フローを参照してください。

チェックリスト

  • 読者・中心質問・扱わない範囲を、書き始める前に決めているか
  • 出典を人が開き、記載内容を確認したか
  • 主張・一次情報・確認日・適用範囲・限界を記録しているか
  • 数値に母集団・時点・単位・比較条件が付いているか
  • 見出し構成を人が決めているか
  • 事実・推奨・推論・例が文中で書き分けられているか
  • 引用が必要最小限で、出所を明示し、本文と区別されているか
  • 全リンクを開いて確認したか
  • 公開日が実際の公開日か。承認者が記録に残るか
  • 訂正の窓口と判断者を決めているか

まとめ

AIは下書きの速度を変えますが、公開してよいかの判断は変えません。だから工程では、生成と判断を分け、判断を伴うゲート(企画の承認・出典の確認・公開可否)をすべて人に残します。

速度が上がったぶんを検証に回せているかどうかが、この工程が機能しているかの分かれ目です。下書きが速くなった結果として検証まで短くなっているなら、それは効率化ではなく品質の前借りです。


引用元・参考文献

公式ポリシー・公的機関

※ 検索評価は検索エンジンのアルゴリズム動向により変化します。本稿は特定の検索順位・流入数・成果を保証するものではありません。引用した英文は原文のまま掲載し、日本語部分は要約です。文化庁資料および検索ポリシーは改定されるため、参照時は各掲載ページで最新版をご確認ください。