候補となる生成AIサービスを二つか三つに絞り、デモも触った。あとは社内の合意を取るだけ、という段階で判断が止まることがあります。情報システム、法務、セキュリティの担当者から返ってくる問いが、機能の話ではないためです。入力したデータはどこに残るのか、学習に使われるのか、契約を終えたときに何が消えるのか。この記事では、導入前に何を証拠として集め、どの条件で採用・保留・不採用を決めるかを、実務の手順として整理します。

対象は、候補サービスを比較し、情報システム・法務・セキュリティの担当と判断をまとめる方です。製品の順位付け、価格の比較、特定サービスが法令に適合しているかどうかの断定は扱いません。社内の情報分類はAIに渡す情報の管理と権限設計、導入後の効果測定は生成AI導入の効果測定で扱っています。

生成AIサービスの選定を6つの段階として順に示した図。第1段階は目的の明確化で、利用目的、利用者、入力データ、外部作用を自社側で書き出す。第2段階は非交渉条件の設定で、これが無ければ不採用とする条件を、望ましい条件と分けて先に決める。第3段階は証拠の収集で、規約、プライバシーポリシー、学習利用、保持、保存地域、権限、ログ、サポート、事故と変更の通知を候補ごとに同じ列で確認する。第4段階は試用で、実データを入れずに小さく試し、分かったことと分からないことを書き分ける。第5段階は判定で、採用、条件付き採用、保留、不採用の4区分に振り分ける。第6段階は運用と終了で、担当者と再確認の契機を決め、持ち出し、削除、アクセス遮断、代替手段まで確認する。この6段階の並びは本記事の編集上の整理であり、公的機関が定めた手順ではない。
図:目的から終了時対応までを1本の流れとして確認する。6段階の並びは本記事の整理

1. 機能表だけでは選べない理由

比較表に並ぶのは「何ができるか」です。しかし社内で問われるのは「何が起きうるか」「起きたとき誰が責任を負うか」であり、機能表はその問いに答えません。

米国の国立標準技術研究所(NIST)が公表した『Generative Artificial Intelligence Profile』(NIST AI 600-1、2024年7月26日)は、生成AIのバリューチェーンについて 「生成AIのバリューチェーンには、調達されたデータセット、事前学習済みモデル、ソフトウェアライブラリなど多くの第三者コンポーネントが関わる」と述べています。同プロファイルはあわせて、生成AIシステムは多数の異なる第三者コンポーネントとデータソースを含むことが多いため、システムの挙動に生じた問題をそのいずれか一つに帰属させることが困難な場合がある、とも指摘しています。

画面の向こう側は一社では完結していません。選定とは、その見えない部分について答えられる範囲を確定させる作業です。同じく NIST の『Due Diligence Assessment Quick-Start Guide』(NIST SP 1326)は、デューディリジェンスを 「the investigative process of researching and verifying all available, pertinent information about a given supplier or product」(供給者または製品について、入手可能で関連するすべての情報を調査し検証する過程)と定義しています。

参照する資料の性格について

NIST AI 600-1 の各項目は "Suggested Action"(推奨される行動)であり、義務ではありません。NIST SP 1326 は ICT 供給者一般を対象とした文書で、生成AI固有の基準ではありません。公的資料が本記事のチェックリストを義務付けているわけではありません。

2. 先に自社側を書き出す──利用目的、利用者、入力データ、外部作用

規約を読む前に、自社側の条件を固めます。何をしたいかが決まっていなければ、条項の可否を判定できないためです。次の4項目という枠組みは本記事による整理です。

項目書き出す内容決めずに進むと
利用目的どの業務の、どの工程で使うか禁止用途に触れるか判定できない
利用者誰が使うか。部署、権限、社外の協力者を含むか権限設計が後追いになる
入力データ個人情報、顧客の秘密情報、社内限定資料を含むか学習利用や保持の条項を読む基準が定まらない
外部作用人の確認なしに社外へ出す、他システムを操作する経路があるか誤りが文章の誤りで収まるか見誤る

個人情報保護委員会は2023年6月2日に「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」を公表し、(1)個人情報取扱事業者における注意点として二点を挙げています。その一つは、個人情報を含むプロンプトを入力する場合について「特定された当該個人情報の利用目的を達成するために必要な範囲内であることを十分に確認すること」というものです。利用目的を最初に置く順序は、ここに対応します。

外部作用については、AIが他システムを操作する場合の設計をAIエージェントの権限設計で整理しています。

3. 「無ければ不採用」の条件を先に決める

確認項目を並べただけでは判定できません。満たされていれば望ましい条件と、満たされていなければその場で候補から外す条件が混ざるためです。後者を先に決めます。本稿ではこれを非交渉条件と呼びます。

非交渉条件になりうるのは、たとえば入力が提供者側の学習に使われないこと、契約終了時にデータを削除できること、入力と出力の記録を自社が取得できること、重大な事故の際に連絡が来ることです。どれを非交渉とするかは、節2で書き出した入力データの性質によって変わります。

学習利用について、個人情報保護委員会は同じ注意喚起の(1)で、本人の同意なく個人データを取り扱う場合の注意点として「当該生成AIサービスを提供する事業者が、当該個人データを機械学習に利用しないこと等を十分に確認すること」を挙げています。示されているのは確認の必要性であり、どれを非交渉条件に置くかは各社の判断です。

「非交渉条件」は本記事の整理であり、引用した公的資料の用語ではありません。判定を止める基準を先に文書化しておく、という実務上の工夫として提示しています。

4. 確認項目を一覧にする

自社側が固まったら、候補ごとに同じ項目を確認します。次の一覧は本記事による整理ですが、列を固定すると候補間の差が見えます。

確認項目何を見るか確認先
利用規約禁止用途、責任の範囲、規約変更の扱い公開規約
プライバシーポリシー取得する情報、第三者提供、窓口公開ポリシー
学習利用入力・出力を学習に使うか。停止できるか規約、契約、管理画面
保持どれだけ保持するか。削除を要求できるか規約、契約
保存地域どの地域で保存・処理されるか契約書、設定画面
権限自社データに誰が触れられるか管理機能の仕様
ログ誰が何を入力したかを自社で取得・保管できるか管理機能の仕様
サポート問い合わせ経路、対応範囲契約、SLA
事故・変更通知事故と仕様変更が、いつ、どの経路で届くか契約、SLA

規約とポリシーの確認について、個人情報保護委員会は注意喚起の(3)一般の利用者における留意点として「生成AIサービスを提供する事業者の利用規約やプライバシーポリシー等を十分に確認し」、入力する情報の内容等を踏まえて適切に判断することを挙げています。この文言は(3)一般の利用者に向けた留意点であり、(1)事業者向けの注意点として書かれたものではありません。

契約に何を書くかについて、NIST AI 600-1 の GOVERN 6.1 は、生成AIシステムに関して、コンテンツの所有権、利用権、品質基準、セキュリティ要件、来歴に関する期待を明示した契約とSLAを作成し維持することを項目として挙げています。

事故と変更の通知は GOVERN 6.2 に関わります。同項目は、契約の見直しにあたり重大な事故の通知と開示、事故対応・応答時間・サポートを扱うSLAを求めることを挙げています。ただし対象は 「third-party data or AI systems deemed to be high-risk」(高リスクと判断された第三者のデータまたはAIシステム)に限定されています。この限定は、後述の継続監視と切り戻しにも同じくかかります。

保存地域の欄に、公的資料の裏付けはありません

本稿が参照した資料に、保存地域を確認項目として明示したものはありません。実務上は契約書と設定画面で確認できることが多いため、本記事の判断で欄を置いています。なお NIST SP 1326 がデューディリジェンスの構成要素に挙げる FOCI(Foreign Ownership, Control, or Influence)は供給者に対する外国の所有・支配・影響を指すもので、データの保存地域とは別の論点です。

5. 「言われたこと」「書かれたこと」「動いたこと」を分ける

同じ「学習には使いません」でも、どこで言われたかで証拠の重さが違います。四つに分けて記録します。

区分具体例弱点
提供者の説明営業資料、問い合わせへの回答契約に落ちていなければ、履行を求める根拠が弱い
契約・規約契約書、利用規約、SLA既定の条件と有償オプションの区別が要る
実際の設定管理画面の設定値、既定値提供者側の更新で変わりうる
試用の結果自社で試した挙動、取得できたログ試した範囲の外は分からない

NIST AI 600-1 は GOVERN 6.1 の項目として、第三者の生成AIに関する工程や基準を自社が評価できるようにする条項を契約に含めること、および調達時のデューディリジェンスを知的財産、データプライバシー、セキュリティなどの観点まで含めて更新することを挙げています。評価できる状態を契約側で確保しておく、という考え方です。

この四区分は本記事の整理であり、公的資料が定めた分類ではありません。分ける目的は、営業資料の一文を契約条項と同じ重さで扱わないことにあります。

実データを入れずに、小さく試す

試用で本物の顧客情報や社内限定資料を入れると、その時点で節2の確認が先に必要になります。入力は代替データにします。様式・語彙・分量は本物に寄せ、値だけをダミーに置き換えると、挙動の確認と情報の保護を両立しやすくなります。

試用で分かること試用では分からないこと
想定業務での出力の質と、手直しの量提供者の対応品質と、事故時の実際の動き
管理画面で何を設定でき、既定値が何か仕様やモデルが更新された後の挙動
ログに何が残り、自社で取り出せるか利用が広がったときの負荷や運用負担

NIST AI 600-1 は GOVERN 6.1 の項目として、「use-cased based supplier risk assessment framework」(原文ママ。use case に基づく供給者リスク評価の枠組み)を導入し、第三者の実績と基準への適合を評価・監視することを挙げています。用途ごとに見る、という点が要点です。

実データを使わない試用という方法自体は本記事の提案です。試用の規模や期間は、業務の重要度に合わせて決めてください。

6. 採用・条件付き採用・保留・不採用に振り分ける

「導入する/しない」の二択にすると、材料が足りないだけの候補まで落ちます。四つに分けます。

判定状態次の行動
採用非交渉条件を満たし、確認項目の証拠が揃っている契約手続きと運用設計へ進む
条件付き採用非交渉条件は満たすが、未確認・未設定の項目が残る条件を文書化し、期限と担当を決めて解除判定へ
保留判定に必要な材料が集まっていない不足している材料と、再開の契機を記録する
不採用非交渉条件を満たさない、または回答が得られない理由を記録し、他候補へ移る

分かれ目は「条件付き採用」です。誰が、何を、いつまでに、何をもって解除するかを書きます。

判定の結果は一覧として残します。NIST AI 600-1 も、承認済みの提供者一覧を整備することを項目に挙げています。

この四区分と解除条件の書式は本記事の整理であり、公的資料が定めた分類ではありません。

7. 採用後に効くのは、担当者と再確認の契機

選定は契約で終わりません。生成AIサービスは、こちらが何もしなくても仕様が変わります。NIST AI 600-1 は GOVERN 6.2 で、導入後の継続的な監視と、微調整・ドリフト・劣化といった時間経過に伴う変化を契約見直しの検討事項に挙げています。

運用では担当者(owner)更新判断(renewal)を決めておきます。担当者は通知を受け取り再確認を起動する人、更新判断は契約継続を見直す場です。

再確認を起こす契機は、次のような出来事です。

  • 規約・プライバシーポリシーの改定通知が届いた
  • 機能追加やモデルの更新が告知された
  • 自社側で利用部署・用途・入力データの範囲が広がった
  • 担当者が交代した、または事故・不具合が起きた

担当者と更新判断という枠組み自体は本記事の整理です。

終わり方を先に決める

やめ方を決めていないと、解約時の判断材料が揃いません。NIST AI 600-1 は GOVERN 1.7 で、AIシステムを安全に、かつリスクを増やしたり組織の信頼性を損なったりしない形で廃止・段階的終了するための手順を扱っており、必要なときに生成AIシステムを停止できるようにするプロトコルを整備することを項目に挙げています。

同じく GOVERN 1.7 は、廃止時の考慮要素として、データの保持要件、廃止後のデータ漏えいを含むデータセキュリティ、上流・下流のシステムとの依存関係を挙げています。

切り替えの備えについては、GOVERN 6.2 が、切り戻しや代替手段のリスクを検証・管理する方針と手順を定めること、そして切り戻しや代替手段には手作業による処理が含まれうることを認識しておくことを挙げています。

終了時の論点確認すること
データの持ち出し(export)蓄積した入力・出力・設定を、読める形式で取り出せるか
削除削除を要求できるか。範囲と、バックアップの扱い
アクセスの遮断アカウント、APIキー、連携トークンを誰がいつ失効させるか
代替手段(fallback)停止中に業務を回す手順と担当。手作業を含めて成立するか

表のうち、持ち出しの形式とトークン失効の運用は本記事による具体化です。引用した公的資料が記しているのは、停止できる仕組みの整備、保持要件と廃止後の漏えいへの配慮、切り戻し・代替手段の検証までです。

8. チェックリストとまとめ

ここまでを一枚に落とすと、次のようになります。

  • 利用目的・利用者・入力データ・外部作用を、サービスを見る前に書き出したか
  • 「無ければ不採用」の条件を、望ましい条件と分けて先に決めたか
  • 規約、プライバシーポリシー、学習利用、保持、保存地域、権限、ログ、サポート、事故・変更通知を、候補ごとに同じ列で埋めたか
  • 集めた材料を、提供者の説明・契約・実際の設定・試用の結果に分けて記録したか
  • 実データを入れずに試し、分かったことと分からないことを書き分けたか
  • 採用・条件付き採用・保留・不採用のどれかに振り分け、条件付きの解除要件を文書化したか
  • 担当者と、再確認を起こす契機を決めたか
  • 持ち出し、削除、アクセス遮断、代替手段まで、終わり方を確認したか

利用者側が守るべき事項については、総務省と経済産業省が策定した『AI事業者ガイドライン(第1.2版)』(令和8年3月31日)と、あわせて公開されているチェックリストがあります。自社の整理と突き合わせる参照先として活用できます。

本稿のチェックリストは、公的資料が示す考え方を実務の順序に並べ直したものであり、公的機関が義務付けたものではありません。項目を埋めても、そのサービスが安全である、適法である、事故が起きない、といったことは言えません。分かるのは「何を確認し、何を確認できていないか」だけです。

それでも、確認できていない項目が明示されていれば、社内の議論は「なんとなく不安だ」から「この条項の回答が未取得だ」に変わります。まずは第一候補のサービスについて、節2の四項目を書き出し、節4の表を一つ埋めてみてください。埋まらない欄が、次に提供者へ聞くことです。


引用元・参考文献

  • NIST『Artificial Intelligence Risk Management Framework: Generative Artificial Intelligence Profile』(NIST AI 600-1、2024年7月26日/確認日:2026年8月15日):第三者コンポーネントとバリューチェーン、調達時のデューディリジェンス、供給者リスク評価、承認済み提供者一覧、契約とSLA、継続的監視、廃止時の考慮事項、切り戻しと代替手段:原文
  • NIST『Cybersecurity Supply Chain Risk Management: Due Diligence Assessment Quick-Start Guide』(NIST SP 1326、2026年7月最終版/確認日:2026年8月16日):デューディリジェンスの定義と構成要素:原文
  • 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(2023年6月2日/確認日:2026年8月16日):個人情報取扱事業者における注意点、一般の利用者における留意点:原文
  • 総務省・経済産業省『AI事業者ガイドライン(第1.2版)』(令和8年3月31日/確認日:2026年8月15日):利用者向けの遵守事項とチェックリストの参照先として:原文

NIST AI 600-1 の各項目は "Suggested Action"(推奨される行動)であり、義務ではありません。NIST SP 1326 は、生成AI固有ではなく ICT 供給者一般を対象とした文書です。本記事は上記資料を確認日(2026年8月15日)時点で参照しています。